ヒンズー教の聖地バナラシは、年間100万人の巡礼者のほか、世界中の旅行者が集まる一大観光地です。
喧騒に包まれる路地、沐浴を行う巡礼者、宗教的な儀式が行われる火葬場など、他の場所で目にすることのない光景を見られる貴重な場所です。
私は、20年前に旅人のバイブル『深夜特急』を読んで衝撃を受け、その後、多くのインド旅行記に目を通してきたので強い思い入れを持っていました。
そして、インド渡航4回目にして、やっと願いが叶いました。
今回は、ガンジス川(現地名:ガンガー)で行われている火葬、沐浴、宗教儀式など「バナラシの魅力」をお伝えします。
ガンジス川に広がる84個の沐浴場(ガート)
ガンジス川は 河自体が「女神ガンガー」として崇(あが)められる場所であり、「沐浴すると全ての罪が清められる」と信じられています。
バナラシにあるガートの数は84個、総延長は5㎞にのぼります。
ガートとは、乾季や雨季など川の水量が変わっても沐浴できる、階段状にせり出た沐浴場のことです。
ガートは紀元前6世紀から建設が始まり、数が増えて現在に至ります。
全てのガートには「ダシャシュワメド・ガート」といったような名前が付いています。
名前の由来は、ガートの建築を命じた王様や貴族が後世に名を残すために自分の名前を付けたそうです。
全てのガートは川の北側に連なっていて、1個のガートの長さは50~60m。
全ての形や色、模様が異なるのでとっても興味深い場所です。
メインのガートは中央付近に位置する「ダシャーシュワメー・ガード」です。
私は初日に「ダシャーシュワメー・ガード」の東側、2日目に西側を散策しました。
ガートには、川の水を持って帰るためのポリタンク、アクセサリーや布製品を売る露天商、チャイや紅茶を売り歩く売り子が商売を営んでいます。
川では、朝夕問わず、沐浴する巡礼者や焚き火を囲むサドゥー(放浪する修行者)など様々な人間模様が広がっています。
※ダシャーシュワメー・ガードの場所は下記Googleマップを参照下さい。
ガンジス川沐浴体験 in バナラシ
バナラシのガンジス川沿いには、数百のボートが停泊しています。
手漕ぎの小さなモノからエンジン付きの2階建てのモノまで様々です。
個人でチャーターすることもできますが、1時間1000Rp以上かかるため私は乗合船を選びました。
メインガートの「ダシャーシュワメー・ガード」付近を出港する観光船は2種類のコースがあります。
1つは、川の西の火葬場付近まで航行したあと反転して東の火葬場を見て戻る30~40分のコース。
2つ目は、中央部のガートから対岸の中州を結ぶコース。
1つ目の観光クルーズ料金は100Rp。
2つ目は片道50Rp(往復100Rp)でした。
観光クルーズは、ガートや人々の雑踏を川から眺めることができるので、とってもいい写真を撮ることができます。
船で中州に渡るメリットは下記の3つです。
①ガート付近(川の北側)は水が汚いため、比較的水質がキレイな対岸は沐浴に適している。
②泳げない人が段差のあるガートで溺れ死ぬことは少なくない。
砂浜は段差がなくゆるやかに入水できるため、多くのインド人が中州から沐浴することを選ぶ。
③ガート北側は寺院や宮殿など建物が立ち並んでいるため夕日を臨める場所が限定されるのに対して、遮蔽物のない中州は夕日を眺めるのに適している。
私はバナラシに5日間滞在しました。
1月だったので思っていたより気温が低く川に入ることを躊躇(ちゅうちょ)していましたが、滞在中に1番気温が高い日の午後2時(20℃前後)に沐浴に挑戦しました。
ヒンドゥー教徒にとって聖なる川ですが、仏教徒の私には上流で生活する数億人の生活排水に加えて皮なめしに使う薬品やさまざまな工場から排出される化学物質を薄めた汚染水。
おまけに、「大腸菌の量が基準値の100倍、赤痢の危険もある」と聞いていたので、口に入らないように気を付けて、傷のない膝下だけ沐浴しました。
汚染された川で沐浴したのだから、20%くらいカルマが洗い流されることを願い耐え忍びました。
バナラシで衝撃を受ける場所、火葬場
バナラシで衝撃を受けた場所は、火葬場です。
84個のガートの中に2か所、火葬場があり24時間365日フル稼働しています。
現地の方は「burning place(バーニング・プレイス)」と呼びますが、「火葬場(カソウバ)」という日本語を使うインド人も多くいたことに驚きました。
川の東にある大きな火葬場がマニカルニカー・ガート。
西にある規模の小さいのがハリシュチャンドラ・ガート火葬場です。
どちらの火葬場も、葬儀関係者以外でも近づくことができますが、写真撮影は禁止されているようです。
とはいえ、多くのインド人観光客は撮影をしています。
私も記録に残したかったのですが、外国人旅行者から金をせびる詐欺師達とトラブルになることを避けるため、ガイドを帯同していないときは撮影を控えました。
火葬を間近で見て思ったことは、「家族は悲しみより喜びの感情が強い」ことでした。
「遺灰を河に流すことで、輪廻から解脱できる」「火葬は天国への入口」。
家族は「故人の願いを叶える」大切な儀式なのです。
そのため、遺体を白い布に包んだうえに煌(きら)びやかな黄色い布を被せて竹を組んだ担架で運びます。
70歳以上生きた方の遺体は、家族に雇われた音楽隊を従え鳴り物入りで入場。
参列者は酒を飲み、中には酒に飲まれている方もいました。
火葬に必要な薪は1人当たり250~300㎏。
男性は心臓を女性はお尻が残るように焼くので遺体によって薪の量を変えて組み上げたあとに遺体を載せます。
薪は、匂いを抑えられるマンゴーの木が使われます。
当然ながら大量の木が必要となるため、周辺から船やトラックで運んだあと、薪割りをして倉庫等に人力で移動させて保管します。
1回の火葬費用はおよそ1万Rpですが、お金持ちは香付けに1kg1000Rpする菩提樹の葉を追加して死者を弔います。
火葬に要する時間は2~3時間。
火葬のあとはガンジス川岸で死者への祈り
灰をガンジス川に流したあとは、故人が解脱(げだつ)できるように僧侶にお祈りをしてもらいます。
祈りの期間は2週間。
お布施は、故人の1年分の食費と同等。
人によっては、金や銀のアクセサリーを渡す人もいるようです。
数百km離れた場所から遺体を移動させて火葬の順番を待ったあとに、火葬、祈り。
交通費、葬式代、お布施、滞在費等にかかる費用は10万~17万Rpに登ります。
輪廻転生から解脱できることを信じているからこそ奮発して最後を迎える。
ヒンドゥー教徒にとって一世一代の大舞台が葬儀なのかもしれません。
バナラシで1番歴史ある火葬場
川の東にあるマニカルニカー・ガートの火葬場は1度に約20体の遺体を焼却できるのに対して、西のハリシュチャンドラ・ガートの火葬場は半分の規模です。
多くの煙が立ち昇るマニカルニカー・ガードは迫力満点で”おどろおどろしい”独特の雰囲気に包まれていますが、見学者が多いため、安全と防犯面に気が抜けません。
それに対して、規模の小さいハリシュチャンドラ・ガートは見学者が少ないので、遺族が遺体にワラで火をつける行程など儀式の流れを知ることができます。
大規模な火葬場に目を奪われがちですが、バナラシに最初に設置されたのは、小さなハリシュチャンドラ・ガートの方なのでこちらの方が歴史があるのです。
火葬場付近で、牛やヤギを多く見かけます。
彼らは、故人を飾り立てるのに使った大量の花などを食べるために火葬場近くに住み着いているようです。
所有者を示す目印は首輪ではなく、Tシャツを着せます。
※マニカルニカー・ガートの場所は下記Googleマップを参照ください。
ヒンドゥー教が定める火葬できない人
火葬するのに1万Rpの費用がかかるバナラシ。
お金がない人は火葬しないで遺体を川に流します。
しかし、ヒンドゥー教のルールで火葬できないケースも定められています。
僧侶、15歳未満で他界した人の遺体は石に巻き付けて水葬します。
また、指が欠損している人、蛇に噛まれて亡くなった人、妊婦、自殺した人は薪ではなく電気で火葬したあとに灰をガンジス川に流すそうです。
焼却に要する時間は30分。
電気式火葬場は、ハリシュチャンドラ・ガートの直ぐ西にある2つの煙突が立っている建物です。
ガンジス川に捧げる宗教儀式プージャー(祈りの儀式)
バナラシの宗教的な儀式で有名なのが、朝夕に盛大に実施されるプージャー(祈りの儀式)です。
ガンジス川岸にある壇上から、礼拝僧(バラモン)が音楽に合わせて火を灯した灯篭を手にしながら祈りを捧げます。
4か所で実施されていますが、日没から約1時間後にメインガートで行われる「アールティー」 の礼拝が見応えがありオススメです。
見学者は軽く1000人以上いました。
祈りの儀式はガンジス川に捧げられるモノなので、見学席は部隊の後ろ側に用意されていますが、見学に適す場所は、踊りを正面から見られる川側です。
会場によっては、礼拝僧の前に立つことが制限されている場所もありました。
見学する方は、少し早めに出向いて、臨機応変、適切な場所取りをすると儀式を楽しむことができます。
ちなみに、川が増水していれば別の場所、悪天候で見学者が一人もいなくても必ずこの儀式は執り行われるそうです。
バナラシのガート散策(日没後)
「バナラシは観光客を騙す輩が暗躍する」悪いイメージを持っていましたが、酷いのは火葬場周辺の一部だけで、思ったより安全であることが分かりました。
そんなワケで、夕方から夜にかけてガートを散策しました。
日没後のガートは観光客もまばらになり、地元の方が帰路につく時間でした。
川沿いで暮らすサドゥー達は軒先に引っ込んで「焚火を囲みながらタバコを回し飲みする」時間のようです。
帰路に、マニカルニカー・ガードを通過しました。
夜の火葬場は、闇と炎と煙が混ざって”おどろおどろしさ”が増し異様な雰囲気を醸し出していました。
24時間火葬すると言うことは1日の1/3はこの状態で作業が行われていることになります。
夜のガート散策は足場の悪い所もあるのでおススメはしませんが、行ってみる価値は十分にあります。
また、マニカルニカー・ガード~メインガートまでの区間に、インドらしいプロジェクションマッピングでを実施しているガートもありました。
バナラシ観光はガイドと周りたい
5日間のバナラシ滞在で効率よく現地の慣習を知ることができたのは日本語ガイドを雇ったからです。
私は投資の世界で生きてきたこともあり、「火葬するのにいくらかかるの?」「お布施は?」といったことが気になる人間です。
火葬場付近で立ち話しした人達に「いくらかかるの?」と聞いてもマチマチの答えしか返ってきません。
バナラシに関する諸々の疑問が溜まったころ、チャイ屋で出会ったのがインド人、日本語ガイドの「キシャン」でした。
彼は、日本語が堪能で私の疑問に明快に回答してくれました。
聞けば、日本を含む色々な外国を旅行したあとに、地元のバナラシに戻ったあとにお店を経営しながらガイドをされている方でした。
「彼と一緒に火葬場に行ったら多くのことが分かる!」と思ったので2時間雇いました。
費用は、こちらの気持ちで良いといわれたので500Rpに負けてもらいました。
ガイド曰くスケジュールが空いていたら1日1000Rpくらいから請け負ってくれるそうです。
複雑なインドの文化を知るために、ガイドを雇う価値は十分にあると思います。
「ガートや火葬場を見られて満足」で終わらせてしまっては勿体ないです。
日本語ガイド「キシャン」に興味を持たれた方はLINE(kishan111)で連絡してみてください。
語学力や人間性を確かめて値段が折り合ったら依頼すればよいと思います。
まとめ
5日間のバナラシ滞在はとっても有意義なモノでした。
私の訪れた1月は水量が少ない乾季。
5~6月は40℃を超える酷暑。
7~8月は連日の雨でガートが隠れるくらい増水します。
つまり、ガートの上にあるモノは全て裏道に引っ越す、もしくは商売を一時お休みすることになります。
365日休みなしで運営される火葬場も裏道に引っ越して規模を縮小して火葬するそうです。
バナラシに訪れる予定がある方は、この辺りも考慮して旅程をたててみてください。
そして、よい経験をされてください。
次回は、「インド・ネパール陸路国境超え」についてお伝えします。
訪問時期:2024年1月
1Rp=1.8円